リードドッグ

犬ぞりを始めて28年たっています。その間多くの犬達と出会い、別れてきました。
我が家で産まれた最初のリードドッグはアンという名のシベリアンハスキー。 おとなしく、決してトラブルを起こさない、チームの中心として10年近く活躍した忘れられない犬でした。

生涯を通して健康で、全く手のかかからない本当に愛すべき自慢のリードドッグでした。そんな彼女も、10歳を過ぎてからは、レースで走ることも無く、年に一度か、二度、そのシーズンに生まれた仔犬たちのハーネスブレイク(初めてのトレーニング)の時だけ、1kmの「パピトレコース」をリードして走ってくるだけが彼女の仕事でした。

17歳まで生きた彼女が16歳の頃でした。その頃には視力も聴力も衰えて足元も危うくなっていたのでコースを走ることは全く無くなっていました。その日は、ハーネスブレイクを迎えた仔犬たちを家の前からスタートさせる準備をしていました。普段静かなアンがその日に限って「アン、アン!」とやけに騒いでいました。(彼女の名はその鳴き声から、父が付けました) 走らなくなって数年たっていたし、ボケも進んでいたのでお腹でも空いている錯覚だね。とか言いながら、仔犬たちを走らせ、ご褒美の餌を与えていました。
さっきまで、あんなに騒いでいたので、アンにも分けてあげようと彼女の犬舎に近づいて気がつきました。アンの姿がどこにも無い。あたりは既に薄暗くなっていて、見まわしてみてもその影は見当たらない。
お腹が空いているのなら、逃げ出すはずが無い。脳裏に浮かんだのはこの歳になっても逃げ出すって事があるのか。次に、浮かんだのはアンは絶対に我が家で死なせてあげたい。探さなくては。
急いで、麻紀と車に乗り込み、エンジンをかけて、ふと脳裏に浮かんだ事がありました。
「まさか。」
でも、そんなことあり得ない。今度は声を出して、「まさかな。」と隣の麻紀を見ると彼女も同じことを考えている事がすぐに解りました。車をスタートさせて向かったのは、あの「パピトレコース」でした。暗闇にライトを照らして、最初のコーナーを曲がり、姿を探して二つ目のコーナーを曲がった時、かすかに何かが動く姿が眼に入って来ました。急いでアクセルを踏み、近づいていくとそこには歩くよりちょっとだけ速いスピードで懸命にパピトレコースを走っているアンの姿がありました。窓を開けて「アン!!」と呼ぶと、スピードは殆ど変わらないのに、それでも懸命にスピードをあげようとするアン。「あと少しだけ。」 距離にして100mほどその走りを後ろから見つめて、車から降り、彼女の前に回り込んで抱き止めました。荒い息を挙げる彼女の脚はがくがくと震えていたけれど、その表情は軽ーく仕事を終えてきたリードドッグの誇らしげなものでした。


もう、10年以上も前の出来事です。アンは我が家の玄関で18歳を迎える直前に美味しそうに晩御飯を食べた後に静かに逝きました また、いつか、どこかで犬ぞりか、ディスクドッグでまたコンビを組んで遊ぶ約束をしました。



Merry Christmas!

by dogtownfactory | 2012-12-25 23:21 | dog sports